令和6年度市長施政方針

更新日:2024年02月20日

松江市議会2月定例会の開会にあたって、令和6年度の施政方針を述べさせていただくのに先立ち、本年元日に発生した能登半島地震により被災された皆様に、心よりお見舞い申し上げます。

本市では、地震発生直後から、姉妹都市であります石川県珠洲市に必要な支援物資を届けるとともに、珠洲市をはじめとする被災地に、島根県との連携の下、応援職員を継続的に派遣しております。

また、たくさんの市民の皆様に、被災地を支援するためのご寄附に賛同いただいておりますことに深く感謝申し上げます。先の臨時議会でお認めいただいた「令和6年能登半島地震被災地見舞金」とともに、珠洲市に送り届け復興を後押しいたします。

引き続き、被災された皆様が一日も早く穏やかな日常を取り戻されますよう、本市としてできる限りの支援を行ってまいりますので、市民の皆様、議員の皆様のご理解とご協力をお願いいたします。

それでは、本定例会に、令和6年度当初予算を提案させていただくに当たり、新年度の市政運営に臨む、私の考えと決意を述べさせていただきます。

はじめに

令和6年度は、私が市民の皆様から負託を受け松江市長に就任してから、任期最終年となる4年目を迎えます。

振り返りますと、新型コロナウイルス感染症の拡大により市民生活や企業活動が制約を受ける中で、感染症対策と社会経済活動の両立という難題に正面から対峙し、各地域における日々の状況を的確かつきめ細やかに把握して、ブレーキとアクセルを交互に踏みながらも、できる限り前向きに市政の歩みを進めてまいりました。

コロナ禍が一定の落ち着きを見せた後も、不安定な国際情勢に起因する、エネルギー価格や物価の上昇、円安の進行など、これまでに経験したことのない難局に直面するに際し、限られた予算を前提に政策効果の最大化を図るため創意工夫を重ねることで、松江の未来を切り拓くチャレンジに邁進した3年間でありました。

この間、市職員一丸となって、また議会と執行部が車の両輪となって、さらには官民が一体となり「オール松江市」として奔走した自負があり、ご協力いただきましたすべての皆様にお礼申し上げます。

令和4年3月には、新たなまちづくりの道標となる、松江市総合計画「MATSUE DREAMS 2030」を策定し、「夢を実現できるまち 誇れるまち 松江」をめざす将来像として、持続可能な魅力あるまちを創造すべく、力を尽くしてまいりました。

主なものを申し上げれば、「中心市街地エリアビジョン」に掲げる歴史・文化を活かした松江(ここ)にしかない空間の創造に向けて「職人商店街」の形成に取り組み、老舗の和菓子店や漆器店などが、その職人技を「観て・体験できる」店舗への改装を進めてきたことで、新たな賑わいの連鎖が生まれつつあります。

また、コロナ禍で停滞した海外との連携を立て直し深化すべく、インバウンド誘客、ビジネスマッチングによる産業振興、文化・教育面での交流などを推進しております。令和4年10月には、中海・宍道湖・大山圏域の各市長とともに台北市長を訪ね交流促進覚書を締結し、昨年10月には、インド・ケララ州に山陰インド協会の一員として4年ぶりに訪問し、州政府や商工団体と相互連携の推進について確認したところです。そのほか、アメリカ・ニューヨーク、サンフランシスコベイエリア、中国・杭州市にトップセールスに出向き、本市固有の魅力を発信することで、本市の発展につながるネットワークや友好関係の構築を図っております。

さらに、地球温暖化対策に関して世界がめざす2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、プラスチックごみの回収、「まつえ循環プロジェクト」を通じた市民参加によるリサイクル活動、ホンダ、西松建設、ユーグレナをはじめとする民間企業との連携による脱炭素化を強力に推進しています。

加えて、「子育て環境日本一」をめざし、昨年4月にはこども家庭センターを設置し、令和6年度からは、子ども医療費無償化の対象を中学生まで拡大するなど、子育て支援の充実化にも取り組んでいるところです。

この3年間、こうして数多くの施策を新たに発想して実行に移し成果を挙げることができたのは、市民の皆様、議員の皆様にご理解ご協力いただいたからこそであり、改めて感謝申し上げます。

私は、市長に就任した当時、松江市を「課題先進地」と表現し、本市が直面する深刻な諸課題を十分に認識し受け止めるとともに、地域資源を活かした「松江ならでは」の、他の自治体に先駆けた取組みに積極的に挑戦してまいりました。

引き続き、これまでに積み上げた成果を生かし、本市の持続的な発展へとつなげてまいる所存ですが、まず令和6年度において、本市のめざす将来像「夢を実現できるまち 誇れるまち 松江」の創造に向けて、特に重視したい3つの視点について触れさせていただきます。

「夢を実現できるまち 誇れるまち 松江」の創造に向けて

市域内のバランスの取れた発展

一つ目は、「市域内のバランスの取れた発展」です。本市の総人口は、昨年12月末時点の住民基本台帳によれば196,021人と20万人を割り込んでおり、さらに、国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口で、令和27年には18万人を下回ると試算されています。

人口減少下にあっても、本市に暮らすだれもが安心して穏やかな日々を過ごし、夢や希望が持てる持続可能な地域社会の実現が求められます。

本市がめざす将来のまちのかたちとして、「市域内のバランスの取れた発展」を実現するため、昨年2月、現行の土地利用制度、いわゆる「線引き制度」に依らない新たな制度の構築に向けて検討を開始することとし、29公民館区での市民説明会や不動産関連団体などとの協議、「新たな土地利用を考える市民シンポジウム」の開催などを通じて、土地利用制度の設計を進めております。今後も、市民の皆様、議員の皆様にご意見を伺いながら、本市の将来像にふさわしい「まちのかたち」を検討してまいります。

また、「市域内のバランスの取れた発展」に必要な「コンパクト・プラス・ネットワーク」の構築に向けて、その礎となる「地域公共交通計画」を今年度末までに策定します。路線バスやコミュニティバスの運行の効率化を図るとともに、AIデマンドバスやグリーンスローモビリティ、電動のトゥクトゥクなど、新たなモビリティと融合した多様な移動交通環境を、官民一体となって整え、市民の皆様のニーズに対応できる交通ネットワークの確立に取り組んでまいります。

さらに、中心市街地の機能に関して、本市の玄関口であるJR松江駅周辺のまちづくりを考える「松江駅前デザイン会議」を、昨年12月に松江商工会議所とともに立ち上げて議論を開始しました。今年秋を目途に「駅前デザイン」を策定すべく、スピード感を持って取り組んでまいります。加えて、松江市総合体育館に関して、新B1入会基準に適合する、島根スサノオマジックのホームアリーナとしての改修を契機に、北公園を含めた周辺のまちづくりについて、関係する皆様とともに検討を進めてまいります。

だれもが便利で快適に暮らせるまちの実現

二つ目は、「だれもが便利で快適に暮らせるまちの実現」です。

昨年12月に、日本経済新聞社と日経BP社が発表した「共働き子育てしやすい街ランキング」において、本市は、中国地方で首位、中国・四国地方では松山市に次ぐ第2位にランクインしました。これは、デジタル技術を使った子育て支援策を積極的に展開していることなどが評価されたものです。

例えば、令和3年度から4年度にかけて、AI、人工知能を用いて育児相談を受け付ける「まつえの子育てAIコンシェルジュ」、母子手帳アプリの「母子モだんだん」、病児保育予約システムである「あずかるこちゃん」の運用を開始し、多くの子育て世代の皆様に利用していただいています。また、今年度は、5月の新庁舎第1期棟オープンに合わせてスタートした「書かなくて済む窓口」や、スマホで保育所の入所申請ができるスマート手続きを11月に導入するなど、行政手続きを簡単にスピーディーに行える環境の整備に取り組んでおります。

今後も、デジタル技術を十分に活用することで、市民の皆様がより便利に快適に生活できるよう努めてまいります。そして、それと同時に、市民の皆様に寄り添う気持ちを大切に、対面での心のこもった行政サービスや相談対応などを通じて、「市役所って、ほんと頼りになる」と実感していただけるよう、令和4年3月に策定した「松江市みんなにやさしいデジタル市役所計画」に掲げる「ちょうどいい市役所」を実現してまいります。

脱炭素化の推進と環境にやさしく安定したエネルギーの確保

三つ目は、「脱炭素化の推進と環境にやさしく安定したエネルギーの確保」です。

本市は、昨年4月に「脱炭素先行地域」に、5月に「SDGs未来都市」に選定されました。8月には、大手自動車メーカーのホンダと協働で、堀川遊覧船を電動化し温室効果ガスの排出をゼロにする、世界で初めての実証運航をスタートしました。令和6年度は、堀川を管理する作業船の電動化に取り組むなど、さらなる環境負荷の低減に努めてまいります。

また、新たなエネルギー源として注目されている水素の活用について、昨年10月に行政のほか金融機関や民間事業者などで構成する「まつえ水素活用勉強会」を立ち上げ、水素サプライチェーンの構築に向けた意見交換や、水素活用の最新動向に関するセミナーの企画などに取り掛かっております。

水素を活用した社会環境の整備は、本市の産業発展のみならず、災害や緊急時のエネルギー確保、安全保障の観点からも重要と捉えており、今後、官民の連携によって「まつえ水素活用協議会」を設置し、本市における水素活用モデルの検討を図る予定です。

このほか、太陽光発電、水力発電、地熱発電、バイオマス発電など、多様な再生可能エネルギーの開発と宿泊・観光施設での利用促進、カーボンオフセットの仕組みを取り入れた旅行商品の造成など、「国際文化観光都市」である本市の観光振興に着目した「松江ならでは」の取組みを進めてまいります。

一方、国が昨年2月に閣議決定した「GX実現に向けた基本方針」では、エネルギーの安定供給や脱炭素化のための取組みとして、再生可能エネルギーの主力電源化に加えて、原子力の活用を掲げています。

本市では、今年、中国電力島根原子力発電所2号機の再稼働が予定されております。原子力発電は、エネルギーの安定供給などの観点から当面必要と考えておりますが、市民の皆様の安心・安全の確保が大前提であり、島根原子力発電所の再稼働にあたっては、事業者である中国電力に対して安全性の向上に不断に取り組むことを繰り返し求めるとともに、原子力災害時における避難計画の実効性を高めるべく、引き続き島根県や受入先自治体と連携してまいります。

以上、「夢を実現できるまち 誇れるまち 松江」の創造に向けて、令和6年度に重視する3つの視点について申し上げたのに続いて、「MATSUE DREAMS 2030」に掲げる「5つの柱」に沿って、令和6年度に推進する具体的な施策についてご説明いたします。

(1)しごとづくり

一つ目の柱は、エネルギー価格や物価高騰などの難局を乗り越え、地域に根差した産業を育み、持続可能な地域経済を導くための「しごとづくり」です。

変化に強い企業づくり

新型コロナウイルス感染症の拡大、国際的なエネルギー価格の上昇、急激な円安の影響などを受けて、地域経済を取り巻く環境は大きく変化しています。

長期化するエネルギー高・物価高への対応策として、国が昨年11月に打ち出した「デフレ完全脱却のための総合経済対策」に呼応する形で、本市として、中小製造業による省エネルギー効果の高い生産設備の導入や、製造現場における業務改善への取組みを継続的に支援することで、ものづくり企業の負担軽減と生産性の向上を後押ししてまいります。そして、現行の「第4期松江市ものづくりアクションプラン」に掲げる「変化に強い企業づくり」を推進してまいります。

IT分野の起業・創業、新規事業創出を支援

また、本市由来のプログラミング言語「Ruby」を起点に、IT分野などに注目した、起業・創業、新規事業創出を支援してまいります。今年3月に策定する予定の「Ruby City MATSUE プロジェクト2.0」に基づき、エンジニア、起業家、地元企業が集まり新たなサービスや製品を開発するワークショップや、アイデアをビジネスへと昇華するプロセスを評価するビジネスプランコンテストを開催します。本市の地域特性や地元産業界のネットワークを生かすことで、ビジネスアイデアと必要なテクノロジーのマッチングを図り、新商品開発やスタートアップ企業の育成・成長を支援してまいります。

中学生向け職業体験イベントの開催

他方、人口減少が進行する中で、市内の中小・小規模事業者にとって、人材不足は深刻な課題です。優秀な人材を確保するため、自社の強み・魅力の発信による認知度の向上、働きやすい職場環境や待遇の改善などが求められています。

将来の夢の実現に向けて、主体的に進路選択を考える時期を迎える中学生を対象に、松江商工会議所と共催で、「職業体験」ができるイベントを初めて企画します。本イベントへの参加が、自らの将来展望の具体化につながると同時に、地元の有望企業に対して関心を持つ機会になることを期待しています。

中心市街地の活性化と「職人商店街」の形成

さらに、中心市街地に多彩な工芸職人などが集まる「職人商店街」の形成に向けた取組みを、引き続き積極的に推進してまいります。令和6年度は、熟練の「匠」の技が息づく老舗店舗のリノベーションに加えて、次代を担う現代工芸の職人技を「観て・体験できる」店舗の新規出店も支援します。また、中心市街地の回遊性を向上すべく、都市再生推進法人との連携により、新規出店店舗にかかるマーケティング戦略や、電動のトゥクトゥクを活用した二次交通の強化を図ってまいります。

農林水産業の担い手育成・確保

農林水産業の振興にあたっては、担い手の育成・確保と生産性の向上が、喫緊の課題となっています。

今年1月に、鹿島町・島根町・美保関町の4事業者により、農林水産業や商工業の担い手を確保するため、いわゆるマルチワーカーにかかる労働者派遣を行う「まつえ特定地域づくり事業協同組合」が設立されました。担い手不足を補い地域経済の活性化をめざす新たな仕組みとして円滑に機能するよう、また、島根県の認定を受けて業務エリアが拡大できるよう、同組合を支援してまいります。

加えて、農業における労働力不足の解決策として期待される「スマート農業」の促進・定着に向けて、農業事業者による機械設備の導入や、農業機械メーカーによるドローン・自動運転田植機の実演会開催などを支援します。また、本市が日本一を誇る牡丹の生産量を維持するため、栽培面積拡大に応じて土壌改良のための費用を助成するなど、担い手へのサポートを拡充してまいります。

林業に関しては、森林環境譲与税を有効に活用して、市内の森林整備、木材の利用促進に取り組むほか、林業事業者の作業効率化を図るための高性能機械や安全性を高めるための防護服の購入費、伐採・枝打ちなどの技術習得にかかる講習会参加費を助成するなど、林業の担い手の確保と育成を促進してまいります。

水産業においては、令和4年度から、本市と青木あすなろ建設、玉川大学の三者で取り組んでいる、アワビの陸上養殖に関する実証実験の成果が実り、昨年、養殖に用いる「半循環式取水システム」の技術的な確立に至ったことから、現在、特許申請を行っております。令和6年度は、本技術を用いたアワビの陸上養殖についてロールモデルの構築をめざし、事業化を進めてまいります。

観光客の利便性向上と周遊促進

次に、観光振興についてです。

昨年5月の新型コロナウイルス感染症の5類移行に伴い、国内外の観光需要が急速に回復し、全国の観光地で賑わいを取り戻しています。

本市は、昨年2月に策定した「MATSUE観光戦略プラン」に掲げる「Authentic Japan “MATSUE”(~城下町 水の都 暮らしに息づく伝統~)」「ホンモノの日本があるまち松江」を、観光誘客のメインテーマに掲げ、本市の魅力である「城下町」「水の都」にスポットを当てた施策を展開してまいります。

令和6年度は、JR西日本が提供する観光アプリを活用して、宿泊予約や観光施設のチケット購入の利便性を高めるとともに、AIが市内観光のモデルコースを提案する機能を用いて、観光客の周遊促進を図ります。

さらに、新たなまちあるきの拠点となる「旧日銀松江匠工房 カラコロ工房」が、今年10月にリニューアルオープンします。地域産品の販売、フードセンター、伝統工芸のものづくり体験、観光案内などの機能を担う基幹施設として、多くの市民の皆様、旅行者の皆様に愛されることを願っております。

持続可能な観光地として発展するための財源確保と推進組織

また、本市が、「国際文化観光都市」の魅力を高め、持続可能な観光地として発展を遂げるには、安定した財源と戦略的に観光施策を実行できる組織・体制が必要です。そのため、現在取り組んでいる、宿泊税導入に向けた検討を速やかに進めるとともに、観光のみならず、文化、スポーツ、農林漁業、商工業、環境分野などの関連事業者・団体及び地域住民が一体となった「観光まちづくり」を推進するため、松江観光協会の体制強化に取り組み、観光エリアのトータルマネジメントを担う観光地域づくり法人、いわゆる「DMO」の登録をめざしてまいります。

インバウンド対策

来年、令和7年の大阪・関西万博の開催を控え、訪日旅行の動きが活発化する中にあって、昨年10月に出雲空港と台湾を結ぶ国際チャーター便が4年ぶりに運航され、同じく10月には米子空港とソウル、12月には米子空港と香港を結ぶ国際定期便が再開されたことから、ますますインバウンド観光が勢いづくものと確信しています。

私自身が海外において観光誘客のトップセールスを重ねる中で、「国宝松江城」や「茶の湯文化」といった本市固有のストーリー性のある観光資源は、外国人旅行者に十分訴求できるものと自負しており、これらをキーコンテンツに据えて、重点市場として位置付けるアメリカ、台湾、フランスに対する情報発信や商談会などの観光プロモーションを強化してまいります。

(2)ひとづくり

二つ目の柱は、未来を担うこどもたちを大切に育て、だれもが個性と可能性を伸ばすことができる地域社会の形成をめざす「ひとづくり」です。

安心して子育てできる環境づくり

まず、子育て世帯が安心して子育てできる環境を整えるため、今年4月から、子ども医療費にかかる助成を拡充し、中学生の通院・調剤などにかかる医療費を無料にします。さらに、母親のリフレッシュを目的とする「温泉ゆったり産後ケア」の提供を開始します。

また、折からの物価高騰を踏まえて、子育て世帯の経済的負担の軽減を目的に、保育所における給食食材費について、従来からの上昇分にかかる助成を継続します。市立幼稚園・小中学校・義務教育学校の給食費についても、今年度2学期から実施している値上げ分に対する半額助成を1年間延長し、子育て世帯の負担軽減を図ります。

学びの環境づくり

教育環境の整備・充実に関しては、誰一人取り残さない学びの保障に向けて、学校に通いづらい児童・生徒とオンラインでつながる「ボタンねっと」を、今年4月から本格的に開始します。学校から配付しているタブレット端末を使って、学校や社会と気軽につながる場を設けることで、教科にかかる学習支援のみならず、対話や相談がしやすい環境をつくり、不安の軽減・解消につなげてまいります。

さらに、昨年から進める揖屋小学校の長寿命化改良工事に併せて、中国5県の公立小学校では初めてとなる「ラーニング・コモンズ」を導入いたします。「ラーニング・コモンズ」は、読書・学習・情報といった図書館機能に、交流センターの機能を加えたフレキシブルな学びの空間であり、開放的な大学図書館のイメージと重なります。本市では、揖屋小学校での実践を通じて、個別最適な学びと協働による学びの両方を実現できる場として、活用を図ってまいります。

松江市立皆美が丘女子高等学校の魅力化

令和6年度は、中国・四国地方で唯一の公立女子高校である皆美が丘女子高等学校の魅力化にも、引き続き取り組みます。

市内をフィールドとして実施する課題解決型科目「まつえ学」について、地域の皆様のご支援ご協力を受けて、課題設定や実地調査のさらなる充実化を図るとともに、グローバルな視点で物事を捉え未来を切り拓く力を培うべく、今年8月から外国語指導助手、いわゆる「ALT」が常駐し、外国語教育の強化に当たります。

本市の友好都市である中国・杭州市(こうしゅうし)の高等学校「杭州第十四中学」との交流については、近年、コロナ禍の影響でオンラインでの実施にとどまっていたところ、令和6年度は、同校から交流団を迎え、5年ぶりに対面での交流を行う予定です。生徒同士が国境や言語を超えて直接コミュニケーションを図り、異なる文化や価値観に触れることで、相互理解を深める貴重な機会になるとともに、国際的な感覚や多様性を受け容れる素養の醸成につながるものと期待しています。

また、今年度に続いて、京都外国語大学、関西外国語大学を訪問し、授業体験や在学生との交流を通じて、海外や語学への関心を高め、将来の展望を拓く一助となることを願っています。

地域における課題解決の促進

また、「ひとづくり」から「まちづくり」につなげていくため、地域活動の成功事例を広く共有する「まちづくりを考える日」と、地域の困りごとに対するアイデアを出し合い議論する「まちづくりでつながる日」を、令和6年度も引き続き開催します。多様な世代・立場から意見交換を行い、柔軟かつ機動的に地域課題の解決を図ることを念頭に置いて、民間企業、大学生、地域のプレーヤーなどに参加を促し、それぞれがつながる機会を増やしてまいります。

他方、人口減少や少子高齢化の進展により、地域において小売店や医療機関など生活関連サービスの縮小が懸念されるとともに、住民のニーズが多様化・複雑化する中で、地域コミュニティを維持するための担い手不足が深刻な課題となっています。

そこで、地域コミュニティ同士が協働し、行政と地域が連携を深めることで、個々の特性を生かした施策を推進し課題の解決を図る必要性が高まっているものと捉えています。令和6年度は、支所と公民館の連携方策や役割分担、必要な体制などについて考えをまとめ、持続可能な地域づくりを導いてまいります。

(3)つながりづくり

三つ目の柱は、「国際文化観光都市・松江」の誇る、歴史・伝統・文化・芸術・スポーツの魅力で、人と人とのご縁を創出する「つながりづくり」です。

小泉八雲没後120年

令和6年は、本市が「国際文化観光都市」の制定を受ける礎となった小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の没後120年の節目に当たり、その著書「怪談」の初版出版からも120周年となります。

小泉八雲が、五感で捉えて世界に発信した松江の文化が改めて注目される好機と考え、市民や団体の皆様が自主企画する、小泉八雲をテーマにしたイベントの開催を支援します。また、「ヘルンをたたえる青少年スピーチコンテスト」など、八雲を通じて地域を学ぶ機会を継続して設けることで、市民の皆様の地元に対する愛着と誇りを育んでまいります。

文化芸術拠点「松江市総合文化センター」のリニューアルオープン

さらに、今年4月には、本市の文化芸術活動の拠点である「松江市総合文化センター」がリニューアルオープンします。中国・四国地方の公共ホールでは唯一のパイプオルガンを、昭和61年の開館以来初めてオーバーホール(分解清掃修理)し、鮮やかな音色が奏でられるプラバホールには、その運営のために新たに音楽プロデューサーを配置して、ハードとソフト両面の充実化による、本市音楽文化の振興を図ってまいります。

松江市総合体育館の改修

続いて、スポーツについてです。

松江市総合体育館を本拠地とするプロバスケットボールチーム「島根スサノオマジック」は、Bリーグチャンピオンシップに2年連続で進出するなど目覚ましい活躍を果たしており、私たち松江市民の誇りになっています。

「2026-27シーズン」から、新B1入会基準が適用されるに当たり、松江市総合体育館に客席やスイートラウンジを増設する大規模改修を行います。令和6年度は、施設改修の設計を進めることとしており、令和8年秋の完成をめざして着実に取り組んでまいります。

移住・定住施策の推進とふるさと納税の充実・強化

近年、テレワークなど柔軟な働き方が広く認知・採用されて、移住に対する関心が高まる中、本市への移住相談件数は増加傾向にあり、令和4年度は146件と「MATSUE DREAMS 2030」に掲げる目標値(100件)を大きく上回っています。令和6年度も引き続き、東京・大阪・広島で開催する「しまね移住フェア」などを通じて、本市の暮らしやすさや魅力ある地元企業のPRに力を入れてまいります。

また、ふるさと納税の獲得については、本市の魅力を全国に発信し、関係人口の創出を図るチャンスであることから、返礼品の内容を全面的に見直しバリエーションを増やすなど、充実・強化を図っております。その結果、今年度の寄附額は、昨年度実績2億円の1.8倍となる3億6千万円を超える見込みです。令和6年度は、本市を訪れた観光客の皆様が当地においてふるさと納税を決済できる仕組みの導入や、クラウドファンディングの活用による新たな寄附者層の発掘に取り組み、さらなる寄附額の増加をめざします。また、誘致企業や本市にご縁のある民間企業、島根県人会、松江会などにも積極的にアプローチし、本市を応援したいと感じていただけるよう努めてまいります。

(4)どだいづくり

四つ目の柱は、市民の皆様が安心して安全に暮らせる社会を守り、健康の増進、医療・福祉の充実や、都市基盤・社会資本の整備に取り組む「どだいづくり」です。

「健康寿命日本一」をめざした健康づくり

健康増進に関しては、令和6年度も「健康寿命日本一」をめざし、市民の皆様とともに健康づくりに励んでまいります。

運動機能の維持・向上を図る「からだ元気塾」や、地域での身近な交流を目的とした「なごやか寄り合い事業」など、通いの場でのフレイル(身体・認知機能の低下状態)予防を進めてまいります。

また、国民健康保険の人間ドック助成について、無料で受診できる対象年齢を拡充し、壮年期の特定健診受診率の底上げを図ってまいります。

「魅力的な」「利用しやすい」公園の整備

市民の皆様の身近な憩いの場である公園については、今年1月に「公園のあり方協議会」が取りまとめた提言に基づき、その機能の強化や充実化を図り、こどもからご高齢の方までだれもが利用したくなる「魅力的な公園」「利用しやすい公園」を整備してまいります。

水辺空間の利活用

なかでも、岸公園、白潟公園をはじめとする宍道湖畔の公園については、令和2年度以降、水辺における賑わい空間の創出に向けて、民間事業者が飲食、物販、アクティビティを提供する社会実験を実施しました。令和6年度は、これら公園の河川区域において継続的な商業利用が可能となる「河川空間のオープン化」を進めるとともに、平日の集客不足や採算面など、これまでの社会実験で把握した諸課題を踏まえて、事業者の皆様とともに、持続可能な水辺空間の利活用方策について検討を重ねてまいります。

大橋川改修と周辺のまちづくり

加えて、大橋川周辺では、河川改修を契機とする白潟地区の都市再生整備計画に基づき、水辺空間と既存ストックを活用することで、市民や観光客の皆様が訪れたくなる魅力あるエリアの形成に取り組んでいます。

令和6年度は、市道松江港線(まつえこうせん)における電線類地中化や、市道和多見天神橋線(わだみてんじんばしせん)の歩道整備を進め、歩行者の回遊性向上を図るとともに、市道西尾大井線などの付け替え工事についても、国・県と連携して進めてまいります。

また、斐伊川水系流域にお住まいの皆様との上・下流(じょうかりゅう)交流の機会を増やし、周辺地域が一体となって大橋川改修の円滑な事業進捗を国に働きかけてまいります。

災害に強いまちづくり

近年、頻発化・激甚化する自然災害から市民の皆様の生命・財産・暮らしを守るため、河川・道路・橋梁など都市基盤の整備に取り組みます。令和6年度は、令和2年度に策定した「松江市国土強靱化地域計画」に関して、近年の自然災害や社会情勢の変化を捉えて見直すこととしており、事前の備えを含めた災害対応力の強化を図ってまいります。

なお、災害発生時に避難路となる市道の舗装整備や支障木の伐採については、国の交付金を活用するなどして、令和6年度、7年度の2ヶ年で集中的に実施します。また、令和6年度は、大雨などに際して迅速かつ効率的に施設管理がなされるよう、河川管理施設の遠隔操作化・自動化も行う予定です。

さらに、地域防災の要となる消防団の機能強化のため、小型ポンプとその積載車を順次更新することとしております。

こうした取組みにより、本市の防災機能を高め、災害に強いまちづくりを進めてまいります。

わかりやすくきめ細かな情報発信

次に、本市からの情報発信に関しまして、私は市長就任当初から「市民に寄り添う市政」を標榜し、その土台となる市政情報の発信と市民の皆様との対話に力を入れてまいりました。X(エックス)やInstagram(インスタグラム)などのSNSを通じてタイムリーな情報発信に努めるとともに、昨年2月には本市ホームページの全面リニューアル、9月にはだれでも投稿・閲覧できる情報発信サイト「まつえナビ」の開設、さらに今年1月からは「プッシュ型」で情報を届ける公式LINEをスタートしております。また、毎月発行する「市報松江」に市長コラムを連載するほか、写真や図やグラフを多用した資料を用いて記者会見を行うなど、広報の充実・強化に努めてまいりました。

令和6年度においても、引き続き多様な媒体を組み合わせて、わかりやすくきめ細やかに情報をお届けすべく努めてまいりますので、市民の皆様、議員の皆様には感想やご意見をお聞かせいただければ幸いです。

「水の都」を活かしたSDGsの推進

また、市政運営のどだいづくりの一環として、世界の共通目標であるSDGs、持続可能な開発目標の達成に向けた取組みを推進してまいります。

本市は、昨年5月に「SDGs未来都市」と「自治体SDGsモデル事業」のダブル選定を受けて、「松江市SDGs未来計画」を策定し、着実に実行に移しているところです。

令和6年度は、小中学生を対象とした「松江市SDGsジュニアリーダー」の育成講座を開講するほか、市内の民間企業や経済団体との意見交換会や、SDGsへの理解を深めるための研修会を開催するなど、広く普及・啓発を図ってまいります。また、行政、民間企業、高等教育機関、市民団体、市民などのステークホルダーが参画するコンソーシアムを設立して課題認識を共有化し、「オール松江市」でSDGs達成に向けた取組みを進めてまいります。

(5)なかまづくり

五つ目の柱は、広域連携による「なかまづくり」です。

中海・宍道湖を囲む5市と大山圏域の7町村で構成する中海・宍道湖・大山圏域市長会では、圏域のスケールメリットとバラエティに富んだ多彩な地域資源を生かして、多様な分野で広域連携を進めています。

令和4年10月には、台湾・台北市と圏域との間で交流促進覚書を締結し、この覚書に基づいて、圏域の事業者が台北市内で開催される商談会や展示会に参加し、牡丹をはじめとする地産品の輸出などビジネスの拡大に向けて動き出しています。また、昨年12月に開催された、「Ruby」のエンジニアや関連企業が集う台湾のコミュニティ「Ruby Conf. TAIWAN」(ルビー・カンフ・タイワン)に、初めて台北市と本市がともに参加したことをきっかけにして、IT分野における連携の深化も図ってまいります。

さらに、インド・ケララ州につきましては、昨年10月、山陰インド協会として4年ぶりに訪問し、州政府や商工団体との連携の推進について相互に確認したところであり、圏域内のIT企業においてインド人大学生のインターン受入も再開しています。令和6年度は、環境、防災、食品など圏域が強みを持つ分野での連携可能性を探り、平成27年に双方の経済発展を目的に締結した覚書に基づく交流を、より一層活発化してまいります。

さらに、インバウンド観光に関しては、米子空港への国際定期便の運航が再開された韓国、香港をターゲットにプロモーションを強化するほか、大阪・関西万博を見据えて、圏域における観光コンテンツの磨き上げと大阪・広島からの誘客を展開してまいります。

圏域の交通インフラ整備に関しては、境港出雲道路を含む高規格道路ネットワークの整備促進に向けて、昨年8月に、圏域の5市と市議会、商工会議所が共同で、「中海・宍道湖8の字ルート整備推進会議」を立ち上げております。令和6年度は、圏域市長会として、中海・宍道湖・大山ブロック経済協議会などとの緊密な連携の下で、「中海・宍道湖8の字ルート」はもとより、山陰新幹線、中国横断新幹線(伯備新幹線)など高速交通網整備の早期実現に向けて、島根・鳥取両県とともに国への要望活動に取り組んでまいります。

おわりに

以上、令和6年度の市政運営に臨む、私の決意と主要施策を申し述べさせていただきました。

本市の長い歴史を振り返りますと、先人たちは幾度となく時代の変化を受け入れることで新たな文化や価値を生み出し、本市の成長・発展を牽引してまいりました。

江戸時代には、松平不昧公が広めた「茶の湯」を庶民が受け入れ、固有の文化としてこの地に根付かせました。明治時代には、小泉八雲が提唱した「オープン・マインド」の精神が育まれることで、本市が世界に広く紹介されるに至り、のちの「国際文化観光都市」の制定につながりました。昭和から平成にかけては、新大橋、宍道湖大橋、くにびき大橋、中海大橋の整備による南北交通ネットワークの形成、大橋川改修に伴う中心市街地の再整備、1市8町村による市町村合併など、大きな変革を乗り越え、新たな時代を切り拓いてまいりました。

そして、現代社会においては、コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻、能登半島地震、世界的なエネルギー価格の高騰、為替の急激な変動、デジタル化の進展、脱炭素に向かう認識の共有化など、社会情勢がダイナミックに変化し潮目が変わる中で、私たちは時代の大きな転換点に立っているものと認識しています。

こうした中、変化をチャンスと捉えて歩みを進めてきた先人に倣い、「松江のジダイ(時代・次代)」を切り拓くべく、「夢を実現できるまち 誇れるまち 松江」の創造に向けてチャレンジを重ね、本市の「未来」をつくるために全力を尽くしてまいりますので、市民の皆様、議員の皆様には、引き続きお力添えをいただきますようお願い申し上げ、令和6年度の施政方針とさせていただきます。

この記事に関するお問い合わせ先

政策部 政策企画課
電話:0852-55-5173
ファックス:0852-55-5535
お問い合わせフォーム