令和3年6月市長所信表明

更新日:2023年02月01日

はじめに

松江市議会6月定例会の開会にあたり、今後4年間の私の市政運営について、所信を申し述べさせていただきます。
先の市長選挙では、市民の皆さまから温かいご支援を頂戴し、市長の重責を担わせていただくこととなりました。ご負託をいただいた4年の任期の中で、「誇れるふるさと松江」を創るため全力で取り組んでまいりますので、市民の皆さま、議会の皆さま方には、ご理解、ご協力のほど、何卒よろしくお願いいたします。

私はここ松江に生まれ育ち、大学進学で初めて松江を離れてその尊さ、かけがえのなさに気づき、「将来ふるさとの役に立ちたい」という確固たる信念を胸に、政府機関である日本政策投資銀行に就職いたしました。そして、25年に亘って国内外で研鑽を重ねる中で、国際的な広い視野を持ちながら、地方の経済・社会の在り方を考える「地域づくり」の手腕を磨いてまいりました。
これまでの経験により培った、課題を解決する力、ネットワーク、リーダーシップを、松江のために余すところなく発揮し、人口減少、新型コロナウイルス感染症をはじめとする喫緊の課題を、市民の皆さまと共に乗り越え、全国地方都市の範となることを目指してまいります。
ここに住む誰もが、明るい未来を感じられる、「夢を実現できる松江・市民が誇れる松江」を創り、それを子や孫たちの代に引き継いでいくことが、私たちの世代の責務であり使命であると自覚しています。
松江の「旧くて良いもの」、すなわち、自然・歴史・伝統文化などのユニークな地域資源を大切にし、磨きをかけるとともに、国際社会において2030年までに達成すべき目標として定着している「SDGs」を強く意識して、前例のないチャレンジングな取組みも積極的に後押ししてまいります。「誰一人取り残さない」という「SDGs」の理念に立脚し、世界に通じる「新しい風」を吹かせることで、市民の皆さまの暮らしの充実と地域経済の活性化を実現し、松江の魅力・ブランド力・存在感を向上させてまいります。

それでは最初に、私が市政運営にあたって大切にしたい、5つの基本的な視点について述べさせていただきます。

1.市政運営で大切にする5つの基本的視点

一点目は、市民に寄り添う市政の実行です。
これまでの市政に関しては、意思決定のプロセスが市民に見えにくい、市民との間に距離を感じるといった意見を聞くことがありました。
市長・市役所からの情報発信の質と頻度を高め、市民の皆さまが気軽に意見できる仕組みや市長と直接対話する機会を充実させることで、「市民の皆さまと共に歩みを進める市政」を実行してまいります。

二点目は、新型コロナウイルス感染症対策に最優先に取り組むことです。
一日も早く市民の皆さまにワクチン接種が浸透し、穏やかな日常が取り戻せるよう全力を尽くします。
また、コロナ禍の影響が深刻化する観光、宿泊、飲食業を営む中小事業者などに対して支援策を講じ、市民生活と地域経済の立て直しを図ってまいります。

三点目は、松江の歴史・伝統文化に育まれた地域資源に磨きをかけることです。
本年3月30日に施行された「松江の文化力を生かしたまちづくり条例」の理念に基づき、国宝松江城や佐陀神能、茶の湯文化をはじめ、松江にある誇れるものを守り、つなぎ、発展させることで「国際文化観光都市」としての魅力を高め、子どもたちのふるさとへの愛着や、伝統工芸を生かした産業振興に取り組んでまいります。
また、お互いを思いやる「心の豊かさ」も、松江に受け継がれてきた大切な財産です。4月初めの島根町加賀の大規模火災において一人の命も失われなかったのは、松江に根付く「助け合いの精神」や「地域の団結力」が生かされた結果であり、後世に伝え残していくべきものと考えています。

四点目は、島根県との連携、中海・宍道湖・大山圏域での協働、産官学金といった異業種間の連携の推進です。
現在、課題が山積する難しい社会情勢にある中で、この地域の力を結集し、一丸となって難局を乗り越えていかなければなりません。地域や業界を超えた強固な連携に基づき、多彩な地域資源を組み合わせ活用することで、新たな価値を生み出します。
松江がこの圏域のリーダーとなり先頭に立って、広域的な観光振興や産業を生み育てる仕組みを構築し、地域全体の発展を導いてまいります。

五点目は、市域内のバランスの取れた発展です。
市内中心部のみならず、周辺部・旧町村にも光を当てて、地域の実態に即した、住民ニーズにマッチしたまちづくりを進めます。
そのベースとなる土地利用の在り方については、これからの「まちのかたち」をどう描くかという、総合的な見地から検討してまいります。
それぞれの地域の特性に応じて、子育て環境・教育、医療・福祉の充実や、農業・漁業の振興など、バランスの良い発展を実現します。

これら5つの視点を基本に据えて市政運営に当たってまいりますが、喫緊の課題である「人口減少」と「新型コロナウイルス感染症」への対応につきまして、一言触れさせていただきます。

2.人口減少対策

わが国の人口は、平成20年をピークに減少に転じ、出生数の長期的な減少とともに、地方から都市圏への若い世代の流出が、全国地方都市の共通した課題となっています。
松江市においても、平成17年から人口が減少し始め、本年3月末時点において、旧東出雲町との合併後初めて20万人を割り込みました。
特に20歳から40歳までの若年層、そして女性の減少が大きく、将来を支える子育て世代が当地から離れてしまうことに強い危機感を抱いています。また、この傾向は中海・宍道湖・大山圏域においても同様であり、広域的な目線で捉えていく必要があります。
今後、地域産業の振興による雇用の創出や、子育て環境・教育の充実などを通じて、人口減少に歯止めをかけるべく取り組んでまいりますが、それと同時に、松江市及び周辺圏域における人口減少のメカニズムを調査し、有効な施策の実施につなげてまいります。
人口は「地域力」の源泉であり、圏域全体の持続的な発展による地方創生を実現するためにも、市民の皆さまが暮らしやすさ、働きやすさを実感できる松江を築いていくことが必要と認識しております。

3.新型コロナウイルス感染症対策

次に、新型コロナウイルス感染症に関して申し上げます。目下、全国的・世界的に、外出・移動の自粛、各種イベントの延期・中止など、市民生活、企業活動において様々な制限や我慢を強いられています。市民の皆さまの不安を解消し、安心して穏やかに暮らすことのできる生活環境を取り戻すため、新型コロナウイルス感染症対策に最優先に取り組んでまいります。

ワクチン接種、医療提供体制の構築・維持

第一に、市民の皆さまが速やかにワクチンを接種できるよう、くにびきメッセなどの集団接種会場を設けるとともに、皆さまの身近にある「かかりつけ医」での個別接種を併用することで、ワクチン接種の体制を整え、円滑な普及を図ります。
今後、当面の間、新型コロナウイルス感染症について継続的な対応を要すると想定しており、医師、看護師、保健師など専門的な人材の確保は急務かつ不可欠です。医療機関、医師会などとの緊密な連携によって、感染患者の発生や増加に対して即時に対応できる柔軟な体制を整備し、維持してまいります。

生活支援

また併せて、コロナ禍の影響によって困窮する市民の皆さまの生活にしっかり寄り添ってまいります。
低所得の子育て世帯については、その負担を軽減するため、給付金の支給による支援を拡充します。コロナ禍による生活環境の変化などで思い悩んでいる方々には、専門機関に相談していただけるよう、必要な情報の周知など対策を講じてまいります。
子どもたちの修学旅行も、中止や行き先の変更を余儀なくされるケースが相次いでいます。市民の皆さまの負担を和らげるため、修学旅行のキャンセルにかかる費用などについて引き続き支援してまいります。

事業者支援

さらに、地域経済が疲弊する苦境下にあっても、事業を維持・継続すべく前向きに取り組んでいる方々を支えてまいります。とりわけ、コロナ禍の影響により深刻な打撃を受けている中小事業者について、国や島根県の支援策との相乗効果が出る形で、市独自の給付金制度を創設します。
また同様に、国や県と連携を図りながら、商工会議所・商工会によるプレミアム付飲食券の発行を支援し消費を喚起することで、感染対策に取り組みながら、厳しい事業環境の中ご尽力されている飲食事業者の皆さまを応援してまいります。

以上、ご説明させていただきましたとおり、「新型コロナウイルス感染症対策」を最優先課題として位置付け、スピード感をもって対応してまいります。

4.夢を実現できる松江・市民が誇れる松江を創る5本の柱

そしてここからは、私が目指してまいります「夢を実現できる松江・市民が誇れる松江」を創るための政策を「5本の柱」に整理し、詳しく申し上げます。

どだいづくり

最初の柱は、市民の皆さまに寄り添う市政への改革、市民生活における安心・安全の確保、地域連携の推進による「どだいづくり」です。
次に挙げる6つの観点から、「どだいづくり」に取り組んでまいります。

市民に寄り添う市政

1つ目は、「市民に寄り添う市政」です。市民の皆さまの声が届く市役所を創り、「市民に寄り添う市政」を実行します。
そのためにまず、市長・市役所からの情報発信を強化してまいります。テレビをはじめ、SNS、インターネットなど多様なメディア・媒体を通じて、より多くの方にきめ細かく市政情報を届けてまいります。
また、市民の皆さまからのご意見やアイデアを市政に反映するため、リアルタイムに声を伺えるオンラインアンケートや、市長と直接対話する集会の開催など、気軽に意見を発信していただける仕組みを創ります。
併せて、市役所職員が年代や部署にかかわらず、活発な意見交換のもとで政策を検討・実施できるように、ボトムアップ型の、議論を重視した「風通しの良い市役所」を実現します。
現在、建設を進めている新庁舎の利活用については、市民の皆さまにとって利用しやすく、訪れることで「元気になる市役所」を目指し、民間のノウハウを取り入れながら、検討を進めてまいります。
加えて、松江市が直面する課題や、その解決のための財政負担を次世代へ先送りせず、解決に向けて歩みを進めるため、効率的な行政運営や財政の健全化、公共施設の適正化をはじめとする行財政改革に取り組み、持続可能な地域づくりのための基盤を整えます。

デジタル社会の実現による市民サービスの向上

「どだいづくり」の2つ目は、「デジタル社会の実現による市民サービスの向上」です。
行政サービスの提供にあたっては、市民の皆さまが、より質の高いサービスをより簡単に受けることができるよう、国が進めるデジタル社会の実現に向けた取組みと歩調を合わせて、「デジタル市役所」を具体化するための計画を策定し、市民の皆さまのニーズを踏まえた利便性の向上を図ってまいります。
行政手続きをオンラインで行うにあたっては、新しいアイデアや技術を取り入れて、使い勝手の良いサービスを提供するとともに、マイナンバーカードで利用できる市独自のサービスを検討し、市民の皆さまのご要望に応えてまいります。
また、インターネットに触れたことのない高齢の方でも、携帯電話などを通して簡単に手続きができるよう、操作方法をわかりやすく説明することに加えて、個人情報にかかる安全性の確保にも取り組んでまいります。
オンライン利用や市役所・支所までお出かけいただくことが難しい方には、身近な場所で行政サービスが利用できるよう窓口を設けるなど、オンラインと対面の両方からサービスを選択できる環境を整備してまいります。

移動の利便性の向上

「どだいづくり」の3つ目は、「移動の利便性の向上」です。
高齢者や障がいのある方にとって、気軽に買い物や通院ができることは、日常生活を営むうえで大変重要です。ご自身の力だけでは移動や外出が難しい方々にも、使いやすい交通手段が用意されていることが望まれます。
現在、運行している公共交通、地域交通の使い勝手、利用頻度などについて整理し、その相互接続や役割分担について検討を図ります。
また、コミュニティバス、AIデマンドバス、低速で公道を走る「グリーンスローモビリティ」など、新たな交通手段の導入について研究し、移動・外出時の利便性向上に取り組んでまいります。

安心・安全なまちの実現

「どだいづくり」の4つ目が、「安心・安全なまちの実現」です。
近年、全国において、大雨・台風などによる災害が局地化・激甚化し、さらには大規模な地震への対策や備えが求められるなど、従来にも増して「災害に強いまちづくり」が重要となっています。
こうした状況に対応するため、大橋川改修と市街地内水対策の推進による治水の強化、土砂災害・浸水被害の防止対策、避難場所の機能強化など、ハード面の整備を行ってまいります。加えて、市民一人一人が防災の知識を学び、適切な判断力と正しい行動力を身に着けるとともに、要配慮者や旅行者を含めた避難対応の充実を図ることで、安心・安全な生活環境を実現します。
防災力の要は地域における「団結力」であり、島根町加賀の大規模火災を契機として、それぞれの地元の方に担っていただいている、消防団活動や地域の拠点施設となる公民館の重要性を改めて認識したところです。「地域防災力」のさらなる強化を目指して、皆さまのご意見を伺いながら、消防団の組織体制や機能の充実に向けた計画を策定してまいります。
自分たちのまちの安心と安全を、人と人とのつながりを大切にして、地域全体で守っていくという意識を共有し、次世代に引き継いでいきたいと考えています。

再生可能エネルギーの普及促進

「どだいづくり」の5つ目は、「再生可能エネルギーの普及促進」です。
環境・エネルギー分野への取組みも、持続可能な地域づくりのためにきわめて重要です。市民生活や企業活動によって発生する温室効果ガスは、地球温暖化などの気候変動を招き、大規模な自然災害が発生するリスクを高めることから、その抑制のための取組みが求められます。
家庭での太陽光発電の導入、地元企業による蓄電池開発などを支援し、再生可能エネルギーの普及を後押ししてまいります。
同時に、二酸化炭素の排出量を減らす「カーボンオフセット」のための施策として、海藻や水草など水生植物によって二酸化炭素を吸収する、いわゆる「ブルーカーボン」について、日本海などでの導入可能性を調査し、全国に先駆けた取組みを検討してまいります。
わが松江市は、全国で唯一、原子力発電所の立地する県庁所在都市であり、従来から、原子力をはじめとする国のエネルギー政策に多大な協力を図ってまいりました。原子力発電は、エネルギーの安定供給の観点から、当面必要性があるものと捉えておりますが、市民の皆さまの安心・安全が最優先であることは論をまたず、事業者には安全性に最大限留意して取り組むよう求めてまいります。
同時に、将来的には原子力発電への依存度を下げて、再生可能エネルギーへ振り替えていくことが望ましいものと考えております。
原子力発電所立地自治体である本市が、全国に先駆けて持続可能なエネルギー政策を推進すべく、再生可能エネルギーの普及を促す「再生可能エネルギー活用ビジョン」を策定し、「松江発」の地球環境に配慮した取組みを進めてまいります。

近隣自治体、圏域、産官学金の連携の強化

「どだいづくり」の最後、6つ目は、「近隣自治体、圏域、産官学金の連携の強化」です。
地方が直面する課題の解決にあたっては、近隣自治体や圏域で知恵を出し合い、地域の力を結集して共に検討し解決に当たることが肝要です。
島根県との連携をはじめ、中海・宍道湖・大山圏域との協働を強化し、相互に不足するリソースを補い合うことで、産業や観光、医療・福祉など、様々な分野の課題を克服してまいります。
併せて、圏域市長会の総合戦略に掲げる「未来をひらく交通ネットワークの形成」の実現に向けて、山陰新幹線及び中国横断新幹線、境港出雲道路を含むいわゆる「8の字ルート」など高速交通網の整備を、圏域の経済界と一体となって、国や島根・鳥取両県に働きかけてまいります。
同時に、よりよい地域づくりを目指し、地元企業、高等教育機関、地域金融機関などが持つ専門的な知見や柔軟な発想を組み合わせて、わが国の地方都市が共通に有する諸課題を解決するための「松江モデル」を創り、全国に発信したいと考えています。

ひとづくり

二本目の柱は、未来を担う子どもたちの育成、思いやりと助け合いによる「共生社会」の実現を軸とする「ひとづくり」です。
「ひとづくり」には、3つの観点から取り組んでまいります。

地域の将来を担う子どもたちの育成

1つ目は、「地域の将来を担う子どもたちの育成」です。
子どもたちが、夢を持ってのびのびと成長を遂げられるよう、ふるさと松江のことはもちろん、国内の他の都市や海外にも目を向けて、視野を拡げる教育の機会を設けることで、好奇心と無限の可能性を引き出します。
子どもたちの個性を伸ばす教育を実践するため、少人数学級を維持し、全ての小学校の高学年における教科担任制の導入を目指すとともに、電子黒板やタブレットを活用して教育の充実を図ることで、学ぶ意欲と学力の向上に取り組みます。
また、若者同士のつながりを感じられる地域活動や、松江以外のフィールドでの学びや交流は、刺激的で貴重な経験となります。地域での社会活動や伝統行事への参加、国内外への留学を後押しすることで、将来の夢や目標に向かって主体的に取り組む力を養います。
そして、世界で活躍する人材を育成するため、スポーツや芸術、学術研究、ビジネスなど、その分野の一流の方とふれあう機会を設けます。地元プロスポーツチームの選手による学校訪問や、「まつえ『子ども夢☆未来』塾」のキャリア教育などを通じて、子どもたちの大局的、俯瞰的な視野を育てます。
同時に、小泉八雲の持つ価値観であり、多様性を受け入れる柔軟な考え方を意味する「オープンマインド」を育むため、国際交流員や地域に暮らす外国人との異文化交流、外国語を学ぶ環境も充実させてまいります。
子どもたちの可能性を最大限引き出すため、様々な進路や職業、そのために必要な知識や資金について学ぶ機会を設け、子どもたち自身が将来に希望を持ちながら、努力し成長できるよう支えてまいります。進学を希望しながらも経済的な理由で困っている学生に対しては、「松江市ふるさと奨学金」などを活用した支援を行います。
さらに、学びの拠点として、市立図書館・公民館などの施設の利便性を高めてまいります。中央図書館を含む松江総合文化センターの改修に際しては、ニーズの高いフリーWi-Fiや専用の学習室などを整備します。なお、今年度から、施設利用者が無料で駐車場を利用できる時間を延長していますが、子育て世代の方々が利用しやすく、居心地の良い学びの場となるよう、環境を整えてまいります。

市民が支え合う「共生社会」の実現

「ひとづくり」の2つ目は、「市民が支え合う『共生社会』の実現」です。
松江市民は、お互いを思いやり、感謝の心を素直に伝えることができる「心の豊かさ」を持ち合わせており、誰もが暮らしやすく子育てもしやすい、優れた生活環境の下地があるものと考えています。
人口減少が進み、さらにはコロナ禍の難しい状況の中で「暮らしやすい松江」を実現するために「鍵」となるのは、時間やスキルのある人がそれを求める人を支え、相互に助け合うことのできる「共生社会」の実現であると考えます。
市民の皆さまがそれぞれの強みを生かして活躍できる地域社会を実現するため、とりわけご高齢の方や障がいのある方の得意分野と、それらを生かせる仕事とのマッチングを図る手法を検討してまいります。また、障がいのある方が就労する際の移動の支援などを通じて、市民誰もが活躍できる地域社会の形成を促してまいります。
市民の皆さまに長くご活躍いただくためには、健康の維持が欠かせません。健康管理や感染症予防対策、医療体制の確保に加え、日頃の運動やスポーツによって健康を増進することが重要となります。公共スポーツ施設を気軽に利用できるよう予約手続きを簡便化する、初心者でも参加しやすいスポーツイベントの開催を支援するなど、市民の皆さまがスポーツに親しめる機会を拡げてまいります。

子育て環境の充実

「ひとづくり」の3つ目が、「子育て環境の充実」です。
子どもの健やかな成長を願う子育て世代が、安心して暮らし働くためには、安心して子どもを預けられる場所やいつでも相談できる窓口の確保など、子育てのための環境整備が必要です。
現状、市内保育所では年度当初の待機児童は生じてないものの、児童クラブでは待機を余儀なくされている地区があります。今後、民間運営の児童クラブ整備を支援することによって待機児童の解消を図るとともに、子どもたちを見守る指導員を確保して、児童の受入れ体制を強化します。
必要なときに、安心して十分な医療を受けられることも、子育てをするうえで大変重要です。市民の皆さまからの要望を踏まえて、中学生までの医療費無償化について検討してまいります。
子育て家庭の悩みやニーズに、柔軟かつスピーディに対応するため、専任のコーディネーターを「子育て世代包括支援センター」に配置して、子育てにまつわる相談や悩みに寄り添います。妊娠中あるいは就学前の児童がいる家庭には、家事援助や育児サポートなど、個別の状況に応じて、妊娠・出産から育児期にかけて切れ目のない支援を行う体制を充実させてまいります。
また、コロナ禍において遠出ができず、子どもたちのストレスがたまる現状に配慮し、安心して遊べる場所を確保するため、老朽化した公園遊具の改修を早急に行うとともに、雨の日でも外出できる場所の整備を検討します。
子育て環境の充実は、将来の松江を支える「ひとづくり」の根幹であることから、できる限り積極的に対応してまいります。

しごとづくり

三本目の柱は、豊かな市民生活を導く地域経済の再建と持続的な成長をもたらす「しごとづくり」です。次の3つの観点で取り組んでまいります。

アフターコロナ時代に向けた企業の成長戦略の支援

1つ目は、「アフターコロナ時代に向けた企業の成長戦略の支援」です。
新型コロナウイルス感染症の影響を受けて厳しい事業環境にある地元企業の皆さまとは、常に意見交換を行ってまいりたいと考えています。どの業種がどういった理由で苦境に立たされているのかをタイムリーに把握することで、サプライチェーンの再構築、需要を捉えた業態転換などを支援してまいります。商工会議所や商工会も通じて、常日頃から緊密に連携を図り問題意識を共有することで、「アフターコロナ時代」を見据えた成長戦略の構築を後押ししてまいります。
また、起業を志す方を応援する「MATSUE起業エコシステム事業」を進化・発展させて、地元企業との強固な連携やパートナーシップによって、スタートアップ企業を育て地域に根付くまでのサイクルの確立を目指します。起業・創業にチャレンジする意欲、「起業家精神(アントレプレナーシップ)」を育む教育や、斬新なアイデアを一つの事業に昇華するためのビジネスサポートの仕組みの構築を、産官学金と弁護士・弁理士など専門家の連携によって検討してまいります。
併せて、地元企業と島根大学・島根県立大学・松江高専・市内各高校との連携を強化して、製品開発や共同研究を支援することで、将来の松江の産業を主体的に担う人材の育成に取り組みます。
また、都市圏に本拠を置く企業の拠点・機能の地方移転の流れを捉え積極的に取り込むため、豊かな自然や災害リスクの低さなど、松江の魅力・強みをアピールし、サテライトオフィスやワーケーションの誘致を強化してまいります。

地方産業創生の成功モデルの構築

「しごとづくり」の2つ目は、「地方産業創生の成功モデルの構築」です。
ユニークな新規事業の育成や新しい産業の創出は、地域経済の牽引力となります。
その大きな可能性を秘めているのが、松江が世界に誇るプログラミング言語「Ruby」です。この貴重な地域資源を生かし、国内外での普及を促進するとともに、「Ruby」を起点とする産業集積、人材育成を支援してまいります。
「RubyCityMATSUEプロジェクト」の取組みを軸に、高等教育機関、専修学校において、「Ruby」を使ったプログラミングの出前授業を行うなど、高度なIT人材の育成を促進します。同時に、島根県との連携や産官学金の協働に基づき、「Ruby」にかかる知見の蓄積を活用したベンチャー支援により、IT分野における「エコシステム」の構築を目指します。
また、農林水産業においても、松江ならではの魅力的な資源を生かした、新たなチャレンジを支援することで、生産者の所得向上につなげます。雲州人参や西条柿、シジミやアワビなどを念頭に置き、地域特産品のブランド化、6次産業化による付加価値の向上を導いてまいります。
併せて、マーケティング機能を強化することで、都市圏の消費者をメインターゲットとした販路の開拓を、地域金融機関や投資ファンドとの連携によって、地元企業の事業承継を、それぞれ支援してまいります。

働きやすく暮らしやすい環境の整備

「しごとづくり」の3つ目が、「働きやすく暮らしやすい環境の整備」です。
「松江の豊かな生活環境において、仕事と子育てを両立したい」という声を聞きます。こうした方々の想いに応えるためには、「しごとづくり」の施策を通じて雇用の機会を創出するとともに、「職」と「住」との兼ね合い、つまりワークライフバランスの取れた、働きやすく暮らしやすい地域社会を創ることが重要です。
松江に所在するすべての企業において、働きやすい職場環境が整備されるように、まず初めに市長である私自身が「イクボス宣言」を行います。子育てや介護と仕事を両立しながら日々頑張っている職員を応援し、私自らもワークライフバランスを実践することで、市内企業・事業所への取組みの浸透につなげていきます。
特に、女性が、働く場において十分に力を発揮できるよう、男性の家事や育児への参加を促すとともに、「まつえIT女子インターンシップ・プログラム事業」などを通じて、女性の就業・起業チャレンジをサポートし、仕事と子育てとを両立できる環境を整えてまいります。

これら「しごとづくり」の施策によって、若い世代の定住やUIターンを促進し、人口減少に歯止めをかけ、松江の持続的な成長・発展を導いてまいる所存です。

まちづくり

四本目の柱は、県都としての都市機能を発揮し、魅力的な観光を創造・提供する「まちづくり」です。
「まちづくり」には、次に挙げる2つの観点で取り組んでまいります。

都市機能の強化、中心市街地の賑わい再生、水辺空間の整備

1つ目が、「都市機能の強化、中心市街地の賑わい再生、水辺空間の整備」です。
県都であり「水の都」である松江の「顔」として、JR松江駅から殿町に至る中心市街地の賑わいを再生し、湖・川の恵みや憩い・寛(くつろ)ぎを享受できる街並みを創ります。その検討プロセスには、市民の皆さまにもご参加いただき、共に「中心市街地エリアビジョン」を策定して、松江のまちづくりの将来像を示してまいります。
大橋川の改修によって治水の安全性を高めると同時に、宍道湖から大橋川に続く水辺を、市民や旅行者が歩いて・触れて楽しめる親水空間として整備します。併せて、宍道湖畔や大橋川沿いでキッチンカーを使ったイベントが開催できる環境も整え、市街地の賑わいを創出してまいります。
また、市街地商店街の活性化に向けて、精力的に活動されている事業者を支援します。松江が誇るお茶、和菓子、八雲塗、陶芸など、ものづくりの伝統工芸職人が集うエリアを形成し、茶の湯体験や和菓子作り、八雲塗などの職業体験ができる、時間消費型の「職人商店街」の創造に取り組みます。
この「職人商店街」には、全国から志のある職人を招き入れ、空き家・空き店舗を有効活用するなどして、多彩な店舗の連続性や回遊性を確保します。なお、「まちのRe-project事業」において、まちなかの既存ストックを活用する「リノベーションのまちづくり」を進める中で培った、プレイヤーの発掘・育成や遊休不動産掘り起こしのノウハウを生かしてまいります。
さらに、「水都・松江」のイメージアップを図る、訴求力の高い地域観光資源として、「水上交通」の導入可能性について検討を図ってまいります。宍道湖、大橋川から堀川、中海へと続く豊かな水資源を、公共施設や観光地の間をつなぐ交通手段として利用できれば、松江や周辺圏域の魅力を大いに高めることになるものと確信しております。

魅力的な観光の創造と提供

「まちづくり」の2つ目の観点は、「魅力的な観光の創造と提供」です。
松江には中心市街地だけでなく、「ジオパーク」を形成する島根半島や中海の近郊にも、魅力的な観光資源が豊富に存在します。半島部の長く美しい海岸線と海水浴場、浦々の風情のある古くからの街並み、中海を周遊できる気持ちの良いサイクリングコースなど、誇れる地域の財産を広域的につなぐことで、「体験型・時間消費型」の観光をプロデュースします。
中海・宍道湖・大山圏域全体を捉えて、ストーリー性を持たせることで、この地域ならではの質の高い時間と空間を提供し、日本全国のみならず世界の人々に対して、魅力を訴えてまいります。
また、温泉、美肌、縁結びなど、松江の持つ個性的な特長を生かし、「癒し」をテーマとする観光に着目して、予防医療と健康診断、さらには地元の農水産品による郷土料理をセットで提供する「ヘルスツーリズム」の実施可能性を検討します。
現在、コロナ禍の影響からインバウンド需要は見越せないものの、将来を見据えて外国人旅行者のための、ユニバーサルデザインによる標識やガイドアプリの多言語化を進めてまいります。同時に、すでにビジネス・観光の両面で関係の深い、台湾やインドなどとの連携を強化します。地場産品の輸出やインバウンド観光の拡充に向けて、トップセールスも通じて、世界に対し松江をアピールしてまいります。

こころづくり

最後の五本目の柱は、市民の誇りとふるさとへの愛着を育む「こころづくり」です。次の2つの観点で取り組んでまいります。

子どもたちの視野の涵養

1つ目が、「子どもたちの視野の涵養」です。
子どもたちや若い世代の皆さまが、松江に暮らす心地よさ、そして誇りと愛着を感じ、松江を自ら「より良いまちにしていきたい」と思えることが、松江の持続的な発展につながります。
そのためには、ふるさと松江の自然・歴史・伝統文化に触れ、地域の人たちと積極的に交流する機会を持ち、松江の良さや魅力を実感することが大切です。同時に、世界に目を向け、海外の文化や外国人とふれあうことで、「世界の中のふるさと松江」を意識し、ここに暮らす価値を理解することもまた重要です。
まず、小中学校での「ふるさと教育」の一環として、まちなかを「探検」する機会や地元企業での職業体験などを通じ、松江の歴史・伝統文化や特産品に触れる場を増やします。併せて、町内会・自治会などの地域コミュニティによる行事や活動への参加を奨励し、ふるさとに対する理解を深めながら地域との一体感を醸成してまいります。なお、地域の文化と誇りを継承する貴重な契機として、松江の伝統行事を集めて交流する「地域伝統芸能祭」を開催したいと考えています。
そして次に、海外との文化・経済・観光面での交流を強化してまいります。友好都市のニューオーリンズ市、アイルランドやインド・ケララ州など、縁(ゆかり)のある国・地域との交流を拡大し、中高生や大学生の留学、ホームステイの相互受け入れを促進することで、世界を知るとともに世界から松江を見る機会・経験を提供します。
また、郷土のプロスポーツチームを市民の皆さまと一緒に支えてまいります。島根スサノオマジックや松江シティFCの活躍は、地域を盛り上げ、地元に対する誇りと愛着を育みます。チームの選手を身近に感じられる交流イベントの開催などを通じて、応援する喜びを市民の皆さまと分かち合いながら、松江の「団結力」「地域力」を高めてまいります。

ふるさとへの愛着・一体感を生む「心の豊かさ」の醸成

「こころづくり」の1つ目の観点は、「ふるさとへの愛着と一体感を生む『心の豊かさ』の醸成」です。
私は高校卒業以降、国内の他都市や海外に暮らしましたが、「ふるさとの役に立ちたい」という初志を貫徹し松江に帰ってまいりました。その理由は、私自身が生まれ育ててもらった松江を愛し、松江が「誇れるふるさと」であるからに他なりません。
市民が誇りや愛着を感じることこそが、松江の持続的な発展を実現する原動力となります。思いやりや一体感を持って穏やかに暮らすことのできる松江の「豊かさ」を実感し、誇りと愛着を持つことで、子や孫たちと共に松江に暮らしたいというマインドが育ちます。そのマインドが積み重なれば、他の地域から見ても魅力的な場所となり、定住・移住を希望する人も増加します。魅力的な場所には優秀な人材が集まり、優秀な人材を求める優良企業が立地して産業集積を生み、観光地としての関心も高まることで、地域経済の発展がもたらされるのです。
とりわけ、若い世代が誇りや愛着を覚え、大学進学や就職で一度この地を離れても、「いつか戻って来たい」「発展のために貢献したい」と思える「ふるさと松江」を築いてまいります。

以上、ご説明申し上げた「5本の柱」を政策の屋台骨として、また冒頭に触れさせていただいた「5つの基本的な視点」を大切にして、市政運営に取り組んでまいります。

おわりに

結びとなりますが、これからの4年間、「夢を実現できる松江・市民が誇れる松江」を創るため、市民の皆さまと共に、着実に歩みを進めてまいります。
皆さまからの厚いご期待にお応えすべく、誠心誠意取り組んでまいることをお約束するとともに、市民の皆さま、議会の皆さま方のご協力をお願い申し上げまして、私の所信とさせていただきます。

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